ペ:ペンギン先生です。 コ:コシロです。 ペ:それでは、前回の続きを話していこうと思います。Intravenous fluid therapy in the perioperative and critical care setting: Executive summary of the International Fluid Academyのレビューの抄読会、今回は7回目だね。 コ:今回は「ショックへの対応」っていうテーマだったっけ。今までも少し出てきたりはしてるよね? ペ:やはり輸液療法というと、ショックとは切り離せないからね。乱暴な言い方かもしれないけど、状態が安定している患者の短時間手術なんて、少しくらいテキトーに輸液していても大した問題がない。しかし、ショックの場合は輸液の方法によって予後がダイレクトに変わってくることが多いので、やはり関心が高いところだと思う。 コ:過去に出てきたところだと、第1回の「蘇生」の話、第4回のALBIOS試験とARISS試験とかもショックの話だよね。あとは第5回に出てきたCRISTAL試験もショック患者対象だね。 ペ:そうだね。なので、この講義を聴いている人の中にも、なんとなくイメージできている人もいれば、よく分からないという人もいると思う。今回も抄読会らしく、論文の内容に沿って説明をしていきます。 コ:抄読会にしては会話が多すぎな気がするけどね。 ペ:仲のいい医局なら、こんなものじゃないかな? コ:いや、無いでしょ。 ペ:さて、まずはderesuscitationとde-escalationの話だね。 コ:de-escalationは第1回に出てきたね。 ペ:そう、その時は少し触れただけだけど、今回はより詳しく話していくことにします。deresuscitation、de-escalationは2012年に初めて提案され、2014年に標準的に使われるようになった造語だ。 コ:比較的新しいんだ? ペ:そうだね。日本語にしたら脱蘇生と段階的縮小、という感じだね。 コ:蘇生は第1回の講義に出てきたね。晶質液を使うように、くらいしか述べられなかったけど。 ペ:そう、蘇生は初期には晶質液を使用して細胞外液を補充していくのが基本となる。第4回の動画で話したグリコカリックスの崩壊と、相対的な循環血液量の減少によって、間質にどんどんと水分が流出していくため、初期は大量輸液をするのが基本だ。こうした積極的な輸液が必要な段階を終了したら、当然投与した水分が大量に体内に残っていることになる。なので、今度は利尿薬や限外濾過を使用して、積極的に水分を除去していく必要がある。 コ:限外濾過って何? ペ:限外濾過は透析のことだと思ってもらったらいいかな。もともと腎不全がある場合や、ショックによる腎不全で十分な尿を排出できない場合に用いることになる。 コ:なるほど。 ペ:つまりは、ショックが終わって大量輸液が必要な段階が終わり、今度は体液を取り除く段階に入る、というわけだね。実際、1週間以内に2日連続で体液バランスがマイナスであることは、ICUにおける患者の生存を予測する因子となることが知られている。 コ:これは、より多くの水分が必要なほど重症な患者だから、結果的に死亡率が高くなった、と考えてもいいのかな? ペ:その側面が完全に否定できないとは思うけど、引用文献を見る限り、水分を制限することによって予後が改善された、と考えていいと思う。 コ:可能な範囲で絞るようにしたらいいってことかな。 ペ:具体的な手順などは次の動画で述べるので、今回は基本的な理屈を確認していると思ってもらえたらいいかな。 ペ:さて、次はEbb and Flowについてだ。 コ:Ebb and Flow? ペ:そう。あまりなじみのない人が多いのではないかと思うけど、輸液に関する論文などを読んでいると、たまに出てくる言葉だ。Ebb and Flowは日本語にすると干潮と満潮を意味する。 コ:それが輸液とどう関係があるの? ペ:先ほど言ったように、長期的な体液バランスがプラスとなった場合には予後が悪化してくる可能性がある。感染や外傷などの侵襲の後、全身性炎症などに伴うグリコカリックスの崩壊によって毛細血管透過性の亢進が生じる。そのため、大量の輸液が必要となるが、それによって体液過剰及び間質性浮腫が存在する悪循環となることがある。これがEbb期と呼ばれるものだ。大部分の患者ではショックが回復して水分が過剰な状態になる。そこから水分を排出していく段階をFlow期という。自然に移行しない場合は、積極的なderesuscitationとde-escalationによって改善を図っていくとよい。 コ:なんだかよくわからないなあ。 ペ:あまり出てこない概念だからわかりにくいのかもしれない。Ebb and Flowについて少し補足することにするよ。 ペ:まず、そもそもEbb and Flowとは何なのか、ということからだ。Ebbは干潮を、Flowは満潮を意味する。つまり、Ebb and Flowで潮の満ち引きを意味するわけだね。このイメージを血管内の水分について考えてみよう。 ペ:感染などで受傷した場合、炎症などによるグリコカリックス構造の崩壊が生じる。それによって毛細血管透過性の亢進が生じて血管内の水分が間質に抜けていくし、また血管拡張によって必要となる水分量が増えることになる。これによって血管内の水分が極端に減少することになる。その血管内の水分がなくなる状態を干潮に例えているわけだ。だからこの時期がEbb期だね。なので、当然減少した水分を補うために積極輸液を行い、血管内の水分を満たしてやる必要がある。 コ:干潮になっているから、それを改善するために十分な水分を加えるということだね。 ペ:そういうことになる。あくまで個人的な感覚だが、この時期は間質への水分の漏出が非常に多いため、大量輸液によって一時的に血管内の水分を補っても、少し輸液の手を緩めればすぐに血管内脱水を生じるし、輸液によって希釈されたヘモグロビンも、輸液を減らしたタイミングで急激に上がってくる感じがすることが多いかな。 ペ:そういった急性期が終了して病態が落ち着くと、今度は体が改善に向かっていくこととなる。そうなると、今度は間質に水分が多すぎることになる。だから、満潮状態、というわけだね。この時期は多すぎる水分による有害事象を防ぐために、利尿薬や透析などで積極的に水分を抜かないといけない、ということになる。 コ:間質の水は勝手に抜けてくれないのかな? ペ:基本的には移行するんだけど、やはり自然経過に任せると移行も遅いし、回復が遅れる印象かなあ。まあ、この辺は憶測も入るけど、まず間質から血液に水を引き込まないといけない。 ペ:それは第4回の動画で話した、スターリングの法則によって規定される。なので、血液中のアルブミン濃度が必要となるが、敗血症後は血液が希釈されているため血液中のアルブミン濃度は下がっている。だから、間質から水分を引く力は弱い。 ペ:だからといって、仮にアルブミンを投与して補うだけの場合、循環血液量の増加につながることになる。これは心房に作用してANPの分泌を促進することになるから、グリコカリックス構造の菲薄化につながる。そうなるとまた血管外漏出につながる可能性もあり、有害な可能性さえある。 ペ:なので、利尿薬などで積極的に水分を排出することによってANPの濃度を下げつつ血液中のアルブミン濃度を確保しておくことで回復が早まるんじゃないかと。 コ:なるほどー。 ペ:さて、今までに述べてきたように、deresuscitationとde-escalationが予後を改善するという話をしてきたけど、その具体的な方法について、論文内で提案されている方法を挙げておこう。と言っても、前のスライドで少し出ているけど、アルブミンを投与しつつ、利尿薬や透析で血管内の水分を取り除く、といったところだね。 ペ:適宜PEEPをかけるというのが記載されているが、肺水腫の治療や予防、肺機能の改善促進といったところだろうね。挿管されているなら人工呼吸器の設定を変更すればいいし、挿管されていなくてもNPPVなどを適宜使用してもいいだろう。 コ:間質から血管内に水分を引くために濃いアルブミンを使いつつ、血管内の水分量を増やさないために、利尿薬などで水分をしっかりと取り除こうっていうわけだね。NPPVって何なのかな? ペ:NPPVは右下の図のように、マスクをしっかりとフィットさせて、機械による陽圧喚起を行うものだ。ほとんどの場合、自発呼吸に合わせて圧力をかけてくれる。挿管しなくても肺に陽圧をかけることができるので、非常に便利だ。 コ:なるほど。 ペ:さて、除水を進めるにあたって、適切な目標値を設定する必要がある。 コ:「適切な」って言われてもなあ。 ペ:まあ、モニタリングをしてバイタルなどを確認しながら調整していくんだけど、そこは結局担当している集中治療医の勘と経験がどうしても入り込んでしまうよね。結局毎日見直すような目標だし、そこまでかっちりとは考えなくていいと思う。 ペ:バイタルが保てるように水分調整しながら、「今日はこれくらい除水しよう」と考えるくらいでいいんじゃないかな。ただし、過剰に水分を引きすぎると神経障害などが生じる可能性があるため注意が必要だ。 コ:前の動画でもそうだったけど、結局はバランスってことね。個人差が大きいから仕方ないのかなあ。 ペ:一応論文内に目安くらいは出してくれているよ。まずはderesuscitationに入っていいのか、ということから考えないといけない。その目安として、血管収縮薬からの離脱や、乳酸値の低下、ヘモグロビンの静脈酸素飽和度などを確認し、輸液の必要性が下がったことを確認する必要がある。 コ:早すぎたら、水分が必要な状態で水分を除いてしまうことになるもんね。 ペ:実際には多少の血管収縮薬くらいは残していても積極除水に入ることはあるかな。確かに血管が拡張していることはグリコカリックス構造がうまく機能していない示唆でもあるのだけれど、水分過剰による有害性との天秤になるからね。 ペ:さて、実際にderesuscitationを開始した後は、酸素飽和度の改善など臨床的な問題点の抽出とその治療目標を考えて、水分バランスの目標を設定して、組織や腎臓への血液灌流についての予防的措置をしないといけない。 ペ:これらは十分安定していない限り24時間後に再評価し、再度目標を設定していくし、評価した結果に応じて計画を調整しないといけない。 コ:治療の目的をしっかりと考えて、目標値を設定しながら、組織障害が無いかを確認するってことね。そして毎日計画を見直そうってところかな。 ペ:シンプルに言うとそういうことだね。この5項目は具体的な方法というよりは、「漫然と治療しないで、しっかりと目的をもって治療に当たりなさい」くらいの注意喚起だととらえていいと思う。 ペ:さて、それでは7回目の講義もここで終了とします。 コ:今回はショックの対応について、なんとなくイメージをつかめるように、くらいの目標だったね。 ペ:そういうことになるね。次回は「蘇生のための輸液療法、4つの段階」というテーマの講義になります。蘇生と言っても第1回の動画で話した、輸液の3つの適応の一つとしての蘇生だね。 コ:より具体的になるってことかな。 ペ:そうだね。ただ、やはり少し具体性には欠けているかもしれない。 コ:個人差の大きいところだし、仕方ないのかな。 ペ:それでは コ・ペ:またね。 |