ペ:ペンギン先生です。
コ:コシロです。
ペ:それでは、前回の続きを話していこうと思います。Intravenous fuid therapy in the perioperative and critical care setting: Executive summary of the International Fluid Academyのレビューの抄読会、今回は4回目だね。
コ:前回は「晶質液と膠質液~晶質液編②~」について話してたんだよね。
ペ:そう、そして今回はその続きとして「晶質液と膠質液~膠質液編~」となります。
コ:また終わりきらなくて分割する、なんてことにならないようにね?
ペ:……
ペ:さて、次はアルブミンについてだ。アルブミン自体は聞いたことがある、または使ったことがある人が多いと思う。ご存知のように、血漿のタンパク質の半分を占めるメジャーなたんぱく質だ。膠質浸透圧を生み出すことができる物質として有名だね。
コ:膠質浸透圧があると何がいいの?
ペ:それを説明するにはスターリングの法則で説明する必要がある。
ペ:スターリングの法則自体は古典的で非常に有名な法則なので、知っている人も多いだろう。大雑把に言うと、毛細血管において、静水圧と浸透圧の差が水の移動を規定する、という法則だ。
コ:どういうことかな?
ペ:毛細血管の中の血液のデータとして、「血圧」と「膠質浸透圧」を考えてみるんだ。血管内の膠質浸透圧は大体1.3mOsm、つまり25mmHgくらいで水分を吸い込む力があるとする。動脈側の血圧は35mmHgくらい、静脈側の血圧は15mmHgくらいの血圧でだとしよう。すると、動脈側は35mmHgで押し出す力、25mmHgで引き込む力が働く。なので、35-25=10mmHgの力で水分を間質に押し出すことになる。一方で、静脈側は15mmHgで押し出す力、25mmHgで引き込む力が働くので、10mmHgの力で間質から静脈に水分を引き込むことになる。
コ:これって、つまり膠質浸透圧が上がりすぎると、動脈側から間質への水分の移動が起こらなくなるのかな?
ペ:私の知る限りそれについて研究した論文は無いけど、理論上はそういうことになるかな。もしかしたら過剰な膠質浸透圧の上昇が組織への水分および栄養の供給を悪化させる、なんてこともあるかもしれない。まあ、実際的には調節する機構がありそうだけど、それについてはよくわからない。なお、スターリングの法則は間質の圧力や血管の浸透性も考慮しているし、最近では間質ではなくグリコカリックスの膠質浸透圧を考慮すべきとされていたりなど、現実にはもう少し複雑で奥が深いけど、今回は触れません。興味があったら調べてください。
コ:なるほど。
ペ:あと、アルブミンはグリコカリックスにも影響を与えているっていう話がある。
コ:さっきも出てきたね。グリコカリックスって何なのかな?
ペ:グリコカリックスは血管の内側にびっしりと生えている羊毛のようなイメージの物質だ。
コ:血管の内側に毛が生えているの?
ペ:そう。血管の内側には羊毛みたいな毛が生えているんだ。これがグリコカリックス。グリコカリックスは血管容積の20%を占めるゲル状の層だ。もちろん存在しているだけじゃない。アルブミンは陰イオンだが、グリコカリックスも陰性に帯電しているので、グリコカリックスの存在によってアルブミンの通過を防ぐ効果がある。これをチャージバリアという。それによってアルブミンが間質に移動するのを防ぐんだ。また、グリコカリックスにはへパラン硫酸という物質が存在しており、血液凝固を強く抑制する。なお、レビューの方ではhemostasis、つまり止血と記載されていたけど、グリコカリックスは血液凝固の抑制の方が有名なので、敢えてこちらで記載しています。あとは、白血球が血管内皮に接着するのを防止することで炎症反応を制御していたり、血液の流れがグリコカリックスにあたることでグリコカリックスが血液の流れを感知し、流速が強いと判断すれば一酸化窒素を分泌して血管を拡張させることで血圧を調整する、など多彩な機能を持っている。
コ:血管の内側にびっしりと生えていて血管を保護しつつ、血管の機能を調整している、という感じなのかな?
ペ:そう。
ペ:ただ、グリコカリックスは活性酸素、高血糖、敗血症などの炎症によるサイトカインの刺激、細菌のもつ内毒素による刺激を受けることで剥離を起こすことが知られている。なので、重篤な患者の多くではこのグリコカリックス構造が崩壊していることが知られている。
コ:グリコカリックスが崩壊しているっていうことは、さっき挙がっていた、バリア機能や血液凝固抑制、炎症の制御、血圧のコントロール、といった機能がなくなるっていうことになるのかな。
ペ:そういうことになるね。ここで補足するけど、グリコカリックスが崩壊することによって、本来備わっていたチャージバリアが弱くなってしまう。先ほど説明したスターリングの法則に従うと、間質にアルブミンが漏出すると、本来血液中に水分を引いていたアルブミンが、逆に間質の方から血液中の水分を持っていくことになる。そうすると間質の強い浮腫の原因になる可能性がある。血液中の水分が間質に持っていかれると循環血液量が低下するから、血圧を落とすことになりかねない。
また、血液凝固機能が落ちることはDICの原因にもなりえる。
コ:グリコカリックスって重要なんだね。
ペ:ここ10年くらいで急速に研究が進んでいるところでもある。昔から輸液学において、サードスペースという概念があった。つまり、血管でも間質でもない第三の場所というわけだね。以前は手術によってコラーゲンの構造が乱れることで水分を保持するようになる、などと説明されていたのだけれど、現在はこのグリコカリックスの崩壊によって間質に水分が漏れ出すことがサードスペースの原因なのではないか、などと説明されることも多い。
コ:そうなると「第三の場所」ではないね。
ペ:まあ、まだまだ研究段階だけどね。
ペ:一説によると、輸液療法がこのグリコカリックスの崩壊の原因になるのではないかと言われている。
コ:何で?
ペ:輸液が過剰になることで心臓の方から分泌される心房利尿ペプチドがグリコカリックス構造を弱める、と説明されていることが多いかな。まあ、これについては次回の動画に出てくるので、そちらを参照してください。
コ:また宣伝なんだ?
ペ:論文のこの後のページに書いてあるから仕方ないんだよ。まあ、このレビューでは「患者の状態が悪影響を与えているだけで輸液のせいではない可能性がある」という風に締めているね。
コ:なるほど。
ペ:さて、アルブミンを投与することについての研究を挙げておこう。
コ:なんかグリコカリックスの話題が長かったけど、一応アルブミンの話だったね。
ペ:そう。アルブミンは先ほど言ったようにスターリングの法則で血管内に水分を引き込む性質がある物質だ。だから、重症の患者において、アルブミンを投与することで、血管内の血液量が増えて血圧を維持しやすくなる。これは一見良いことのようにも思えるね。それを検証するための研究についてみてみよう。まず有名な研究としてはALBIOS試験だね。これは重傷敗血症患者や敗血性ショックの患者にアルブミンを投与した場合にどうなるかを検証した大規模無作為化試験だ。患者に対して晶質液を投与するのか、アルブミンと晶質液を投与するのか、どちらがいいかを検証している。アルブミンは投与の目安として、血中アルブミン濃度が3.0g/dL以上になるように維持している。すると、アルブミンを投与した方では、心拍数の低下、平均同脈圧の上昇、体液バランスの低下が認められた。
コ:つまりバイタルは落ち着いていたし、輸液も少なくて済んだってことだね。
ペ:そういうことになる。なので、一見良い結果にも見えるが、90日時点での死亡率や早期不全のスコアに差は認めなかったようだ。
コ:アルブミンを投与した方が途中経過は良さそうだったけど、結果的には違いが無かったっていうことかな。
ペ:そう。ただし、重症患者だけで見てみると、アルブミンを補充した方が死亡リスクが低いことが示された。
コ:つまり、投与した方が結果的には良かったっていうことかな。
ペ:そう。そこで敗血症性ショックの患者のみに絞って検証されたのがARISS試験だ。その結果、ALBIOS試験と同様に、血行動態の改善に有効だというデータは得られたものの、明らかに死亡率を改善するというデータは得られなかった。
コ:ということは、アルブミンを使った方がいいのかどうかはよくわからないということになるのかな?
ペ:つまりはそういうことだね。ただ、血行動態の改善が認められるということは、やはりリスクを下げることにつながるし、全身状態の良くない患者や、リスクのある患者には有効な可能性もある。ただ、そこまで絞って分析はできていないね。
コ:そうかあ。まあ、困ったら使っておいて損はないっていう感じなのかな?
ペ:まあ、アルブミンは1本で5000円近くする高価な薬剤だし、コストパフォーマンスを考えないならそういうことになるね。薬価に見合う結果があるわけではないかもしれないが、必要な状況だったら迷わず使った方が良いだろう。
【エンディング】
ペ:さて、それでは、4回目の講義はここまでとします。
コ:やっと晶質液と膠質液についての話は終わり、というところかな?
ペ:そう、次回からようやく周術期の水分管理、というテーマになっていきます。
コ:それでは
コ・ペ:またね。
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