ペ:ペンギン先生です。 コ:コシロです。 ペ:それでは、前回の続きを話していこうと思います。Intravenous fuid therapy in the perioperative and critical care setting: Executive summary of the International Fluid Academyのレビューの抄読会、今回は2回目だね。 コ:前回は「輸液の種類の基本と使い分け」について話してたんだよね。 ペ:そう。輸液の使い方の状況の分類、細胞外液補充液、5%ブドウ糖液、1号液、3号液などについて説明しました。まだ見ていないという方は前回の動画をご覧ください。 コ:今回は何について説明するの? ペ:今回の内容は「晶質液と膠質液 ~晶質液編~」というテーマになります。 コ:晶質液と膠質液って何? ペ:晶質液は前回の動画で説明したような、糖や電解質を含む輸液全般を指す。細胞外液補充液の他、5%ブドウ糖液、1号液や3号液などすべてが該当することになるね。 ペ:しかし、麻酔の領域では晶質液というと、細胞外液補充液のみを指すことが多い。 ペ:指導医から「晶質液を持ってきて」と言われた時に、ブドウ糖液とかをもっていかないようにしないとね。今回の論文の内容で「晶質液」というと、細胞外液補充液を指しているようだ。 コ:膠質液は? ペ:膠質液は英語でコロイドと言ったりするね。晶質液の中にアルブミンとかデンプン製剤とか、高分子の物質が入っているものを指す。 ペ:アルブミンとか、ヒドロキシエチルデンプンなどの成分を含む物を指す。 コ:高分子の物質?なんでそんなものが入っているのさ? ペ:それはまた後で説明するので、いったんは置いておこう。 ペ:バランス型輸液というものがある。これは「酸塩基平衡と電解質濃度への影響が最小限に抑えられた晶質液と膠質液」を意味する。 コ:つまりどういうこと? ペ:輸液製剤、特に細胞外液補充液にはナトリウムとかカリウムといった電解質が含まれているよね?たくさん投与すると、当然血液中の電解質に影響が出ることになる。 ペ:その影響が最小限になるようにバランスをとったよっていうことだね。 コ:なるほど。 ペ:その輸液は2種類に分けられる。1つ目は強イオンの差(SID)が24〜29mEq/Lに近いもの。2つ目は塩素イオン濃度が110mEq/L以下に調整された輸液だ。 コ:どういう意味なのかな? ペ:この論文に出てきた図を引用してみた。この表に出てくる輸液は海外で使われているものばかりで……まあ乳酸化リンゲルや酢酸化リンゲルの名前はあるけど、基本的に名前は気にしなくていいと思う。 ペ:この輸液はよく見たら2分類することができる。論文内の図を少しいじって、青と赤に色分けしておいた。 コ:説明書いてあるけど、赤の方はin-vivo SIDという項目の数字が大きいね。一番小さいので45.8、青い方は一番大きいので29になってる。 ペ:そうだね。そして赤の方が塩素イオン濃度が全体に低くなっているね。 コ:そして、有機酸と書かれた四角で囲まれた部分の合計値がin-vivo SIDと書かれているところと等しくなっているのかな? in-vivo SIDって何なのかな? ペ:in-vivoというのは生体内って意味だね。SIDは先ほど名前だけ出てきたstrong ion differencesを意味する。つまり、強イオンの差だね。 ペ:まあ、強イオンの差っていうと分かりにくいかもしれないけど、つまりは電解質濃度の差だ。よく見たら、in-vivo SIDはNa+K+Ca+Mg−Clで計算できる。strong ionとは電解質のことで、陽イオンと陰イオンの差を示しているのがSIDということになる。 コ:つまり、さっき言っていた2つの分類っていうのは、「strong ion differencesが24-29のもの」と「それ以外のもの」という感じなのかな? ペ:そうだね。赤い四角で囲んだ部分に「乳酸」「酢酸」「リンゴ酸」「グルコン酸」といった有機酸があるけど、これらは代謝されたら重炭酸イオンになる。重炭酸は体内でpHを弱アルカリ性に保つために使われる物質だから、これによって体内のpHをアルカリ性に近づけることができるんだ。 コ:なるほど……じゃあ、有機酸は多ければ多いほどいいのかな? ペ:では、ここで具体的に見てみよう。例えば、一般的な患者のデータで計算してみよう。Na=140、K=4、Ca=2、Mg=2、Cl=100だとしよう。 コ:カルシウムって正常値は10とかじゃなかったっけ? ペ:それは単位が違うんだ。mg/dLで見た場合と、mmol/LやmEq/Lで見た場合とで違ってくる。 ペ:カルシウムイオンは2価だから、mEq/Lでは2.2〜2.8ぐらいになる。 コ:なるほど。 ペ:この例だとSID=48mEq/Lぐらいになる。これは重炭酸だけではなく、他の陰イオン(リン酸・アルブミン・乳酸など)も寄与しているからだね。 ペ:だから、血液中の重炭酸の濃度に合わせてSIDを24にするのか、他の電解質に合わせてSIDを48にするのか、という2つの考え方がある。 コ:つまり輸液も2系統に分けられるってこと? ペ:そう。電解質を保ってSIDを高く保つものと、重炭酸に合わせてSIDを24〜29に抑えるものに分類できる。 コ:なるほど。 ペ:さらにSIDを下げるには「ナトリウムを減らす」「塩素を増やす」という2つの方法がある。 コ:確かに。 ペ:じゃあ、どっちが良いのか?って話になる。そこで出てくるのがスチュアートという人物の理論だ。 ペ:スチュアートはpHの決定因子として、①二酸化炭素分圧、②弱酸の濃度(乳酸など)、③SIDを挙げている。 ペ:呼吸を変えない前提で話すなら、pHに影響を与えるのは②と③、つまり乳酸やSIDになる。 コ:うん。 ペ:結果的にSIDを重炭酸に近づけた方がpHを安定させやすい、というのが現在の考え方だ。SIDが小さいとアシドーシスになり、大きいとアルカローシスになる。 コ:日本で使っている点滴は? ペ:データを見てみると、28〜34ぐらいが多い。ナトリウムや塩素を調整してpHを保っているのがわかるね。 コ:なるほど。 コ:今までの話からすると、フィジオは少しアルカローシスになりやすくなるのかな? ペ:まあ、気にするほどかはわからないけどね。 コ:そして、生理食塩水は当たり前といえば当たり前だけど、strong ion differencesがゼロなんだ? ペ:そういうことになるね。実際、生理食塩水が血液のpHをアシドーシス側に傾けるというのは有名な話だね。 コ:なるほど ペ:あと蛇足ながらstrong ion differencesと聞いて、アニオンギャップを連想した人も多いんじゃないかな? コ:確かにイメージ似てるよね。 ペ:アニオンギャップは、患者の血液において陽イオン(ナトリウム)と陰イオン(塩素+重炭酸)の差を求めるものだ。 ペ:SIDはもっと広い概念で、輸液中であれ血漿中であれ、陽イオンと陰イオンの差を示すという点ではアニオンギャップもその一種と考えられる。 ペ:そのため、SIDの定義は文献によって異なるので注意が必要だ。Na+K+Ca+Mg−Cl のようなものもあれば、HCO3−や乳酸、アルブミンを含めたり、Na−Cl の簡易式で見る文献もある。 コ:結局その文献の内容を見ないと分からないんだね。 ペ:そういうことになるね。なので、SIDが出てきたら必ずその定義を確認する必要がある。 ペ:さて、バランス型輸液というのが出てきたけど、逆にアンバランス型輸液というものがある。 ペ:バランス型輸液は乳酸リンゲルや酢酸リンゲルなど、電解質バランスを生体成分に近づけたもの。 ペ:アンバランス型は、浸透圧は合わせていても電解質の構成が生体から離れているもの。代表が生理食塩水だ。 コ:なるほど。 ペ:健康な患者に投与した場合、バランス型輸液の方が循環血液量の増加が10%少なかったという研究がある。 コ:え、生理食塩水の方が血液に残りやすいってこと? ペ:そう。ただし、大量出血しているような患者では、バランス型の方が少ない量で血圧を維持できたという研究もある。 コ:え?それ矛盾してない? ペ:そう思うかもしれない。でもこれは患者の状態によって輸液の効果が違うことを示している。 ペ:つまり、研究結果を単純に他の状況に当てはめてはいけないってことなんだ。 ペ:輸液療法の効果を見るには「どのような輸液を、どのような状況で、どのくらいの量を、どれくらいの期間使ったのか」をしっかり意識する必要がある。 コ:これは前の動画に出てきた、薬の種類、用量、投与期間、段階的縮小の部分にもつながるところがあるね。 ペ:そうだね。まだ見ていないという人は見返してみてください。 コ:宣伝するんだ? ペ:さて、中途半端なところですが、今回の動画はここで一旦区切ろうと思います。 コ:えっ!?まだ4ページ目までしか見てないよ? ペ:strong ion differenceの概念をわかりやすく説明しようと説明を足したら、思ったより長くなってしまったので、前回の分と合わせて3回に分けることにしたんだよ。 コ:前回の動画で、「今回だけだよ。」って言ったのに……。 ペ:すみません。では、また次の動画でお会いしましょう。次は「晶質液と膠質液」の続きを読み進めていくことになります。今回の最後に出てきたバランス型輸液とアンバランス型輸液の違いを踏まえて、アルブミンなどにも触れていきます。 コ:ご視聴ありがとうございました。チャンネル登録とグッドボタンをくれぐれも忘れないようにね。 ペ:それでは、また次の動画でお会いしましょう。 コ・ペ:またね。 |