ペ:こんにちわ。ペンギン先生です。 コ:コシロです。 ペ:今回からオンライン抄読会を始めたいと思います。 コ:ペンギン先生、抄読会って何ですか? ペ:抄読会というのは、「論文を紹介するから、みんなで議論しようね」っていう集まりだね。多くの場合、発表者が一人いて、論文の内容についてスライドなどで説明し、みんなで感想や疑問点などを話し合っていくことになる。決まりは無いけど、英語論文を発表することが多いかな。 コ:どんな論文を紹介することが多いのかな? ペ:抄読会は基本的に10分程度で終わることが多いので、症例報告とか、基礎研究の報告、臨床試験、疫学データの統計解析とかが多いかな。ただ、今回は抄読会と言ってもオンラインなので、より多くの人に関心を持ってもらえるようにと、レビューを引用することにした。1回で話すと長くなるので、何回かに分割して話すことにするよ。概要欄に目次を書いておきます。 コ:具体的にはどんな論文なの? ペ:今回のメインテーマは輸液だね。輸液については、通り一遍の内容は割とインターネット上に見つかるのだけれど、日本語でわかりやすくまとめた資料が少なかったので、一度総合的な情報をまとめてみたかった、というのもある。 ペ:今回は以下のタイトルの論文を紹介します。論文へのリンクは概要欄に記載します。 コ:周術期や重症治療における輸液の総論、といったところかな? ペ:そう、今回は輸液についての総論を記載したレビュー、として紹介していきます。麻酔の歴史的にも有名な研究などにも触れていて、非常に良いレビューでした。 ペ:専門家がよく話す内容が詰まっているので、このレビューをしっかりと読めば、ワンランク上に上がれることは間違いない。その分学術的な話も入るので、初見ではわかりにくい場合もあるかもしれないけど、動画だから見返すこともできるのがメリットだね。 ペ:動画中でも抄読会らしく、活発に議論しながら進めていきますし、必要に応じて解説も加えます。また、有名な研究や概念について十分触れていない所もあったので、そこはわかりやすいように補完して説明します。 ペ:もし意見などがありましたら、視聴者の皆さんもコメント欄に自由に記載したり、活発に討論していただけたらと思います。 コ:チャンネル登録も忘れずにね。 ペ:さて、今回は Intravenous fluid therapy in the perioperative and critical care setting: Executive summary of the International Fluid Academy のレビューについて説明したいと思います。発表はペンギン先生です。 ペ:さて、今回の動画では「輸液の種類の基本と使い分け」について述べた項を挙げていきます。予備知識の説明も入るので、論文の内容はあまり進まないかもしれません。 コ:はーい。 ペ:さて、輸液療法は1世紀以上前から行われてきましたが、有用性や有害性についての議論が始まったのはごく最近のことです。 ペ:輸液療法には 蘇生(Resuscitation)、置換(Replacement)、維持(Maintenance) の3つの分類があります。 ペ:蘇生は敗血症や大量出血の直後などに、急激に循環血液量が減少した状態に行うもの、置換は「蘇生」ほど不安定ではないけれど、経口摂取だけでは十分な水分が得られない時に行うもの、維持は状態としては安定しているけれど、経口摂取ができないから点滴を行うものだ。 コ:少しイメージがつかみにくいなあ。 ペ:イメージとしては、ショック状態になっていて急速な輸液を必要とするのが蘇生、手術直後や意識障害があるなどで、水分喪失は大きくないが、経口摂取できないことを理由に必要最低限の輸液を行うのが維持。 ペ:置換はその中間にあたる。たとえば、脱水や下痢などでそれなりに水分の喪失はあるけれど、急速な点滴までは必要としない場合だ。 コ:他のパターンは無いの? ペ:まあ、この他にも薬剤の投与のためのルートだったり、点滴が詰まらないように最低限の流量で輸液をするなんてパターンも元論文では触れられているけど、それは輸液療法自体が目的ではないので、解説からは省略しているよ。 コ:はーい。 ペ:このように輸液は特定の治療目的を持って行っているので、「投薬の一種」と考えてよい。 ペ:しかし、最適な方法というのは存在しておらず、近年になって活発に研究されるようになってきた。 ペ:今回の論文はこの輸液療法について、現在わかっていること、あるいは現在考えられていることを理解してもらうことを目的としている。 ペ:抗生剤などの一般的な薬剤の場合、4つのDというのを考えなくてはいけない。 ペ:具体的には Drugs, Dosing, Duration, De-escalation だ。日本語で言うと、薬の種類・用量・投与期間・段階的縮小だね。 コ:デ・エスカレーションは感染症科の先生が好んで使うイメージがある言葉だね。 ペ:そう、たとえば重症患者に原因のよくわからない感染症がある時、とりあえずメロペンなどの広域抗生剤を投与するけど、原因菌が分かったら、その菌に合った狭いスペクトルの抗菌薬に切り替えることを言う。 ペ:日本語訳としては狭域化が適切かな。ただ、今回のデ・エスカレーションについては、輸液の種類の変更というよりは、輸液量を減らすっていうニュアンスのようだね。 ペ:さて、4つのDの内容を見ていこうか。まずは輸液の種類。 ペ:「蘇生」の段階では血管内に残りやすいように、晶質液などを用いるとよい。晶質液というとわかりにくいかもしれないけど、つまりは細胞外液だと思ってもらえればいいかな。 ペ:「維持」の段階では維持液や5%ブドウ糖液を用いるとよい。「置換」の段階では、患者の状況によって変えるべき、とあるね。 コ:「置換」の段階は説明になっていないね。 ペ:先ほど言ったように、あくまで「蘇生」と「維持」の間のものだからね。 ペ:たとえば、脱水にしても細胞内脱水なら細胞内に水分を補いやすいブドウ糖液を選ぶし、出血や発汗が本態なら細胞外液を補う必要がある。 ペ:蘇生のような緊急性はないから、まずは開始液などで細胞内と外のどちらが不足しているのかを判断して、慎重に投与するのがいいかな? コ:細胞外液とか、細胞内液、維持液、開始液って何なの?聞いたことはあるけど、よくわからないや。 ペ:それでは、輸液の大まかな分類について少し説明しようか。 ペ:右上の図のように、水分は細胞内と細胞外で2:1の分布をしている。また、細胞外では間質と血管内で3:1に分かれている。 ペ:なので、血管内には体内の水分のおよそ12分の1が分布している。これはとりあえずいいかな? コ:うん、聞いたことあるよ。 ペ:細胞膜は半透膜で、水分を通すことができる。 ペ:しかし、安定状態では細胞内外の浸透圧が等しいので水分の移動は起きない。 ペ:逆に言うと、細胞外から細胞内に水分を移すためには、細胞外液の浸透圧を変える必要がある。 コ:つまり、細胞の中に水分を入れるには、細胞外液を薄くしてあげないといけないってことだね。 ペ:そういうことになるね。 ペ:そのため、細胞外液と等しい浸透圧の輸液をすると、細胞内には移動せず、血管内と間質だけに水分が入る。 ペ:一方で、水と等しい浸透圧の液体を入れると、全体に等しく水が分布するようになる。 ペ:でも、実際には水を注射することはできないんだ。 コ:それはそうだよね。溶血するし。 ペ:その通り、細胞障害が起きるので、純水を注射することはできない。 ペ:そこで考えられたのがブドウ糖液なんだ。 ペ:ブドウ糖は代謝されると二酸化炭素と水になるから、結果的に水分だけが残る。つまり、実質的に純水を投与したのと同じ効果になる。 ペ:そのため、細胞内に効率よく水を届けることができる。 ペ:5%ブドウ糖液は浸透圧が血液と等しいため、細胞障害を起こしにくく非常によく使われる。 ペ:もっと濃いブドウ糖液もあるけど、血管炎のリスクがあるので注意が必要だ。 ペ:細胞外液補充液は濃度が高めなので、血管内・間質に水が入りやすい。 ペ:5%ブドウ糖液は逆に細胞内に水が行きやすく、両者は極端な性質を持っている。 ペ:これを例えるなら、水だけ飲む or スポーツドリンクだけ飲む、のような選択だね。 ペ:どちらかだけだと極端だし、交互に使うのも面倒。そこで考えられたのがブレンド輸液。 コ:テレビショッピングかな? ペ:……。まあ、半々に混ぜればいいという発想だね。 ペ:たとえば、細胞外液補充液と5%ブドウ糖液を1:1で混ぜたのが1号液。 コ:1号液ってバランス型なの? ペ:そう。前情報のない脱水患者などにとりあえず使うことが多いから、開始液とも呼ばれる。 ペ:腎不全が隠れている可能性もあるから、カリウムフリーであることが多いのも特徴だね。 ペ:次に3号液。これは細胞外液補充液と5%ブドウ糖液を1:3でブレンドしたもの。 ペ:電解質が少なめ・糖分多めなので、病棟の維持液として使われる。 ペ:電解質が少ない分、カリウムなどを補充しているのが特徴だ。 コ:2号液と4号液は? ペ:1:2が2号液、1:4が4号液。だけどほとんど使わないし、置いていない病院も多い。ぶっちゃけ私も使ったことがない。 コ:じゃあ1号液と3号液だけ覚えればいいんだね。 ペ:そういうこと。 ペ:さて、今回の動画は以上になります。 コ:えっ!?論文の1〜2ページしか見てないよ? ペ:実は次の動画とまとめて1本にする予定だったけど、輸液の説明を足したら長くなっちゃったので2回に分けたんだ。 コ:しょうがないなあ、今回だけだよ。 ペ:すみません。それではまた次回の動画でお会いしましょう。次は「晶質液と膠質液」について読み進めていきます。 コ:ご視聴ありがとうございました。チャンネル登録とグッドボタンも忘れないでね! ペ:それでは、また次の動画でお会いしましょう。 コ・ペ:またね。 |