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輸液講座 第3回 輸液量について

※動画の解説文だけを見たい人のために、台本をアップしています。
ただし、必要に応じて改変していますので、細部は異なるかもしれません。
記載するのは図説などを含まないシンプルな文面だけです。図説などが必要な方は動画を参照してください。

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ペ:こんにちは、ペンギン先生です。
コ:コシロです
ペ:前回と前々回で、細胞外液補充液と輸液製剤の選び方について概説したね。適切な輸液製剤を選ぶのも大切だけど、麻酔をしていて悩むことが多いのが輸液量だ。
コ:つまり、点滴の投与量ってことだよね?毎回決まった量を投与するのではいけないの?
ペ:例えば手を洗って拭かずに放置すると、5分もしないうちに乾いてしまうよね?手術中の体表も同じで、皮膚を切ると蒸発が激しくなり、大量の水分が失われるんだ。小さな手術と大きな手術では傷の大きさが違うので、乾燥の速度に大きな差が出てしまうことになる。
コ:つまり、手術の種類によって輸液の速度を変えないといけないっていうことだね?
ペ:手術内容だけで輸液速度が決まるわけではないけど、手術内容が変わると輸液速度を変えないといけないのは、その通りだ。そして、教科書で輸液速度について調べると「術前の体液の不足量」「不感蒸泄量」「サードスペースへの移行量」「尿量」「出血量」を予測してその合計だけ投与すること、と書いてある。
コ:つまりどうすればいいの?
ペ:一応教科書にはそれぞれの予測方法が書いてあるけど、予測に予測を重ねて足し合わせたものだから、信憑性も怪しいし、煩雑だ。理論としてはとても重要なんだけど、実践的とは言えない方法だね。
コ:そうだよねえ。
ペ:もう一つ教科書に載っているもので、有名なところで言うと4-2-1ルールというのがある。これは、1957年にHollidayとSegarの2人によって発表された、古典的な小児の維持輸液の方法だ。体重のうち、10kg以下の部分を4、20kg以下の部分を2、それ以上の部分を1として、1時間の投与量を計算する方法だ。
コ:少し計算が複雑だね。
ペ:計算自体は慣れたら簡単だけど、もともと、健常な小児維持輸液に用いる方法なので、この式を大人に適用しようとすると不具合も多いのが問題かな。成長するにしたがって、必要な体重当たりの輸液量が減るのを、うまく表現していると思う。ただし、繰り返しになるけど、これは正常な成長を前提としていることが重要だ。例えば、体重25kgの成人にこの式を当てはめると、水分過剰になってしまう危険性がある。
コ:つまり、成人には使いにくい方法っていうことかな?
ペ:小児の場合には参考にしていることも多く、重要な方法だけど、成人で考えると不適切になる場合が多いと思う。特に、よほどの低侵襲手術でない限り、手術中の輸液量の判断には使えないだろうね。
コ:他に方法は無いの?
ペ:私の知る限り、教科書に記載されているのはこの2つがほとんどだ。したがって、文献的な裏付けは無いが、私が専攻医の時に習った方法を紹介しよう。今でも基本的にはこの方法でやっている。まず手術に応じて2~10点の点数をつける。簡単な手の手術など不感蒸泄の少ない手術を2点、大きな開腹手術を10点、という具合にね。
コ:なるほど、最低は1点じゃないんだ?
ペ:大体1日あたりに必要な水分量が体重×30~40倍とされるので、50kgの人で1500~2000mlということになる。1点の場合は50kgの人で1200ml/dayになる。1日分の水分量にも満たなくなるから、さすがに少なすぎる、という判定だね。なので最低2点。このように、ある程度の目算を付けながら輸液をして、脱水傾向なら水分を補充するし、溢水傾向なら水分を減らす、という感じだね。
コ:同じ手術だったら、何も考えずに同じだけを輸液していくってわけにはいかないんだ?
ペ:そもそも、手術の前の患者さんの水分の状況や、それぞれの体質も違うしね。体内の水分量を予測して調節をしていくのも麻酔科医の醍醐味だと思う。ある程度予測して輸液をしていくわけだけど、水分過剰は予測が難しいから、迷う場合は、脱水にならない程度に、控えめに水分を入れるように心がけるといいかな。
コ:水分が足りているかを評価するにはどうすればいいのかな?
ペ:基本的な指標としてはバイタルを見ることになる。有名なところで言うと、血管内から水分が減ると、少ない水分で何とかするために、心拍数が上昇し、血圧が低下し、尿量が減少することになる。特に心拍数血圧はわかりやすい指標だね。
コ:尿量の方は?
ペ:尿量は、集中治療室などではよい指標になるんだけど、例えば腹腔鏡手術などだと腹腔鏡の刺激によってバソプレシンの分泌が促進されて尿量が下がるなどが知られている。このようなホルモンの影響の他、血液中の塩素イオン濃度とか、尿道に入っているバルーンからうまく尿が排泄できているか、血圧の影響、薬剤の影響など、体内の水分量以外の影響が非常に多い上に、時間が経たないと尿量の変化はわからないのが難点だね。
ペ:例えば腹部動脈瘤の手術腎移植など、腎臓の血流や腎機能を気にしないといけない場合などは重要になるけど、少なくとも私は、普段はそこまで尿量を参考にしていないね。むしろ色から濃縮の状態などを見ることはある、くらいかな。あくまで参考程度っていうイメージだ。ただ、ほとんどの症例で見ることができるのはメリットだね。まあ、もちろんこの辺りについては異論があるという人もいると思う。意見がある方は遠慮なくコメント欄にお願いします。
コ:じゃあ他の方法はないのかな?
ペ:必要に応じて中心静脈圧を見る方法もある。静脈は余分な水分をため込む性質があるので、その圧力を確認すれば、血管内にどれだけ水分の余裕があるかわかる、というわけだ。ただ、血管の緊張具合や右心室の機能などにも依存するので、最近は信憑性が低いともいわれているし、首などから点滴を取らないといけないので、使える機会は少ない。
コ:もっと簡単に使えて信頼性の高い方法はないの?
ペ:例えば、呼吸による変化を利用して脱水を評価する方法がある。
コ:というと?
ペ:血液の循環というのは呼吸の影響を受けているんだ。例えば深呼吸をすると、胸の中の圧力が下がるから、血液が流れやすくなる。逆に息を吐くと、胸の中の圧力が上がるので、血液の流れが悪くなる。まあ、人工呼吸をしているときは逆なんだけど、細かい話は置いておくことにしよう。さて、では水分がいっぱいでパンパンになっている血管と、水分が足りなくてペシャンコになっている血管は、どちらが呼吸の影響を受けやすいかな?
コ:そうだねぇ、つぶれている血管の方が、圧力が下がると膨らむし、圧力が上がるとつぶれそうな印象があるかな?
ペ:そう、血管はつぶれている方が呼吸の影響を受けやすいんだ。そして、そのように呼吸によって生じる循環の影響が、いくつかのモニターに反映されるんだ。例えば、代表的なものがPPVだね。これは動脈Aラインが入っている場合に見ることができるものだ。
コ:Aラインって、動脈にカテーテルを入れるやつだよね?
ペ:そう。Aラインを入れると、動脈圧をリアルタイムで測定できるようになる。そしてPPV(Pulse Pressure Variation)は、呼吸に伴って血圧の変動が大きくなるかどうかを見る指標なんだ。脱水だと血管が柔らかくなっていて、呼吸で押されたり引っ張られたりして圧が大きく変わる。
コ:なるほど。じゃあ、PPVが大きかったら脱水の可能性が高いってこと?
ペ:その通り。だいたいPPVが10〜15%以上になると脱水が疑われるね。もちろん他の要素も見る必要はあるけど、信頼性が比較的高い指標だ。
コ:それって他にも似たような指標があるの?
ペ:あるよ。例えばSVV(Stroke Volume Variation)も似たような指標で、1回の拍出量が呼吸によってどれくらい変わるかを見るんだ。これはフロートラックという装置を使って測ることができる。
コ:フロートラックって何?
ペ:フロートラックは、Aラインの波形を使って、心拍出量血管抵抗まで解析してくれるモニターだよ。普通のAラインより高価だけど、情報量が多くて便利。ただし、SVVを測るだけならコストに見合わないこともある。
コ:PPVSVVはどっちがいいの?
ペ:正直、信頼性はどちらも大きな差はないとされているね。手軽に使えるのはPPVかな。Aラインさえ入っていればすぐ使えるし。
コ:じゃあ、フロートラックの他のメリットは?
ペ:心拍出量(CO)全末梢血管抵抗(SVR)をリアルタイムでモニターできるのは大きいね。これによって循環動態を詳細に分析できる。
コ:それは便利そうだね。でも高いんでしょ?
ペ:そう、通常のAラインが3000円くらいなのに対して、フロートラックは約4万円。だから頻繁には使えないけど、高リスク症例などでは有用。
コ:それだけ高価でも使う価値があるってことだね。
ペ:そうだね。ちなみに、Aラインを使ってもPPVが見られない場合には、SpO₂モニターを使ってPVI(Pleth Variability Index)を見る方法もあるよ。
コ:ああ、あの指に付けるやつだよね?
ペ:そう。PVIはモニターが対応していれば、非侵襲的に確認できる。ただし、個人差や測定条件の影響を受けやすく、参考程度に見るべき指標だね。
コ:じゃあ信頼性は低め?
ペ:うん。PVIはあくまで「補助的」な指標。PPVSVVと違って、これだけで判断するのは危ない。
コ:他にも参考にするものってあるの?
ペ:例えばヘモグロビンの値の変化も参考になるね。術中に輸血していないのにヘモグロビンが上昇していたら、それは血管内脱水の可能性が高い。
コ:なるほど。それってどれくらいの頻度で確認すべきなの?
ペ:症例によるけど、Aラインがあれば、術中に採血して随時チェックできるのが理想だね。
コ:うーん、なんかどれも決め手に欠けるというか……一発で「これだ!」っていう指標はないのかな?
ペ:その通り、だから複数の指標を組み合わせて総合的に判断することが大切なんだ。たとえば、心拍数血圧尿量PPVSVVヘモグロビン値などの変化をまとめて見て判断する。これが麻酔科医としての腕の見せ所だね。
コ:なるほど……水分量の評価って、そんなに簡単じゃないんだね。
ペ:そう、だから麻酔管理の中でも輸液管理はとても重要なテーマのひとつなんだ。
コ:じゃあ、水分量がわかったとして、実際の点滴ってどう調整していくの?
ペ:いい質問だね。輸液速度を決めたら、それをどうやって実際の滴下に変えるかを理解しておく必要がある。
コ:例えば、1時間に200ml投与すると決めた場合、どうやって調整するの?
ペ:まず、成人用の点滴セット小児用の点滴セットがある。成人用20滴で1ml小児用60滴で1mlなんだ。成人用で200mlなら、200×20=4000滴。これを60分で割ると、1分あたり約67滴。つまり1秒1滴以上のスピードで落とす必要がある。
コ:じゃあ、だいたいの目安として「成人用で1秒1滴=180ml/時」くらいってことかな?
ペ:そう! その感覚が大事なんだ。私はいつも心電図の音を参考にしてるよ。心拍数が60なら、1秒に1回音が鳴る。その音に合わせて1滴ずつ落ちていれば、だいたい1時間180mlって覚えておくと便利。
コ:なるほどね〜。ちなみにポンプを使うときはどうするの?
ペ:輸液ポンプシリンジポンプがあると、ml/hで設定できるから楽。ただし、どこの施設でも数が限られているから、高リスク症例厳密な輸液管理が必要な場合に優先されることが多い。
コ:じゃあ、ポンプがないときは目視で調整ってこと?
ペ:そうだね。でも、目視調整だからといって大雑把でいいってわけじゃない。輸液バッグの残量が減ってくると、自然に滴下速度も落ちてくるから、ある程度は様子を見て調整していかないといけない。
コ:現場感覚って大事なんだね。
ペ:その通り。もちろん、厳密な管理が必要なら微量注入器縦ポンプなどを使うけど、使える機械は限られてるから、使いどころを見極めることも大事だよ。
コ:今日はかなり実践的な話だったね!
ペ:そうだね。脱水の評価投与速度について、しっかり理解しておくことが大事。じゃあ、今回はここまでにしようか。
コ:次回は何をやるの?
ペ:次回は出血時の補正輸液の基本理論について話していこうと思っているよ。今までは主に細胞外液補充液について話してきたけど、輸血コロイド製剤など、他の選択肢も重要だからね。
コ:それじゃあ、また次回!
ペ:またね!
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