ペ:こんにちは、ペンギン先生です。 コ:コシロです。 ペ:今回から、本格的に抄読会の内容に入っていく予定だ。今回紹介するのは、A Comprehensive Review of Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drug Use in The Elderlyというタイトルで、解熱鎮痛薬について、既存のデータをまとめたアメリカ発の論文だね。 コ:前回の講義で炎症についてや、解熱鎮痛薬の作用機序なんかについて詳しく説明していたんだったね。 ペ:そう、もし今回の講義の内容がわからない場合は、抄読会の第0回、NSAIDsの作用機序とCOX選択性についての動画を参照してください。 ペ:今回は、第1回として「NSAIDsのCOX-1, COX-2選択性」というテーマで講義を進めていきます。 ペ:さて、それでは早速、論文本体に入ることにしようか。まず、NSAIDsは最も一般的に処方される鎮痛薬の一つだ。この動画を見ている人でも、ロキソニンやイブプロフェン、アスピリンなどのNSAIDsを使ったことが無い、という人はあまりいないんじゃないかな。それくらいメジャーな薬だね。痛みや炎症に非常に効果がある一方で、消化管出血、心血管系の副作用、腎臓の障害など、多くの副作用があることが知られている。この論文では、そういったことも含めて、NSAIDsの性質について詳しく説明している。 コ:よく使う薬について、最新情報を教えてくれるっていうわけだね。 ペ:まずは基本的な情報からだね。NSAIDsは年間処方薬の約5から10%を占める最も一般的に処方される薬剤の1つで、65歳以上の患者におけるNSAIDsの使用率は96%にも達し、60歳以上の高齢患者の約7.3%が、1年間1回以上のNSAIDsの処方を受けている。この論文はアメリカのものなので、恐らくアメリカでのデータだけど、日本もそんなに変わらないイメージかな。 コ:こうやって聞くととてもメジャーだね。 ペ:さて、前回の講義で説明したように、NSAIDsはCOXを阻害することで、プロスタグランジンという炎症物質を作るのを妨害する。それによって、炎症を弱め、その結果として熱を下げて痛みを取るわけだね。 コ:コックさんが荒木さんをプロスタグランジンにするのを抑えるんだったね。 ペ:そして、前回説明したように、COXには2種類存在している。常に細胞の機能を調整しているCOX-1と、炎症が起こった時に働くCOX-2の2つだね。 コ:常勤のコックさんがCOX-1で、臨時雇いのコックさんがCOX-2だったね。常勤のコックさんは色々な機能を持っているけど、臨時雇いのコックさんはプロスタグランジンしか作れないんだったね。 ペ:その関係で、NSAIDsはCOX-2選択性が高い方が、炎症に対する効果が強く、副作用も少ないと思っている人もいるんだったね。そして、NSAIDsの種類ごとに、COX-1とCOX-2、どちらに働きやすいかをまとめた表が以下になる。この表では「半分抑えるのに必要な濃度」を示しているから、数字が小さいほどそのCOXを強く抑えるっていうことになる。つまり、COX-1の値が小さい薬はCOX-1を強く抑えるタイプ、COX-2の値が小さい薬はCOX-2を強く抑えるタイプということだね。 コ:なんか複雑そうだね。 ペ:今回は敢えて記載したけど測定条件によって値が10倍くらいずれることもよくあるし、基本的にはCOX-2選択性の方を見てみるといいよ。これは、COX-1の50%阻害濃度をCOX-2の50%阻害濃度で割ったものだ。値が大きい方がCOX-2を選択的に阻害することになる。逆に、値が小さいものはCOX-1の阻害作用が強い、ということになるね。 コ:こうしてみると、COX-1の方を強く阻害する薬って、結構多くない?アスピリンとか、インドメタシンとか、イブプロフェンとか、ロキソプロフェンとか、有名な薬がことごとく数字が小さいんだけど。 ペ:これは、NSAIDsの歴史が原因となっている。NSAIDsは古代エジプトやギリシャで、ヤナギの樹皮を解熱や鎮痛に用いたのが始まりとされている。柳の樹皮にはサリシンというNSAIDsが含まれていたんだ。古代の人々はそれを経験的に知っていたわけだね。古代ギリシャの医聖として有名なヒポクラテスも、発熱やリウマチに柳の樹皮を用いたという記録が残っているね。 コ:どうやって使ったの? ペ:お茶のように煎じて飲んだり、砕いて飲んだりしていたようだね。葉にも多少はサリシンが含まれるらしく、中世ヨーロッパではハーブ茶として使われたり、1763年にはイギリスの牧師エドワード・ストーンによって、柳の樹皮の鎮痛作用が王立学会に報告された、という記録も残っているね。 コ:古代から根強く使われ続けていたんだね。 ペ:そして、1828年、柳の樹皮の有効成分として、サリシンが単離され、そこからサリチル酸が合成されるようになった。 コ:サリチル酸に変換しないといけなかったの? ペ:サリシンは体内で代謝されてサリチル酸に変換される。なので、サリチル酸に比べると効きが遅い点が問題だったようだ。その分、胃腸障害は弱かったようだけど、それは当時そこまで意識されていなかったようだ。 コ:できたばかりで、あまり知られていなかった、ということなのかな。 ペ:また、天然成分なので効果が安定しないのが問題だったようだね。そこで、1859年、ヘルマン・コルベという人物がサリチル酸の人工的な合成を成功させた。これによって、サリチル酸が医薬品として爆発的に普及するようになる。ただ、普及したことによって、サリチル酸の胃腸障害が大きな問題となるようになった。 コ:使う人が増えて口コミが増えることで問題点が明らかになってきた、という感じかな。 ペ:そこで、副作用を軽減するためにできたのがアセチルサリチル酸、通称アスピリンだ。 コ:ようやく知っている薬が出てきたね。 ペ:その後1950年代になってインドメタシンが作成され、そこから20年程度でイブプロフェンやナプロキセン、ジクロフェナク、ピロキシカムなどのNSAIDsが生成されるようになった。 コ:どんどん種類が増えるようになったんだ? ペ:しかし、それでもやはり依然として胃腸障害が問題とされ続けてきた。そこで1971年にジョン・ヴェイン博士らにより、NSAIDsのCOX阻害作用が証明された。ちなみに、この功績でジョン・ヴェイン博士は1982年にノーベル生理学、医学賞を受賞している。 コ:ノーベル賞級の大発見だったんだね。 ペ:そして、1991年になって、シモンズ博士により、COX-2遺伝子が発見され、COXには2種類あることが知られ始めることとなった。 コ:なるほど、つまりCOX-2選択性の高いNSAIDsの開発は、ここから始まったというわけだね。 ペ:そういうことだ。全体的に、古いNSAIDsはCOX-1とCOX-2を意識して作られていないので、COX-1選択性が高いものも多い。一方で、新しいNSAIDsはCOX-2選択性を意識していることが多いね。最近では選択的COX-2阻害薬というのが出ているね。COX-1よりもCOX-2に圧倒的に効きやすいのが特徴だ。日本で有名なものとしては、セレコックスがある。ちなみに、セレコックスの名前の由来は見ての通りだ。 コ:安直だねえ。 ペ:私はこういう安直な名前が大好きだ。なにせ覚えやすくていいし、印象に残るからね。 コ:そうですか。 ペ:薬物の名前としてはセレコキシブだ。COX-2に12倍以上の選択性を示す。 コ:ここまでくると大量に飲まない限りCOX-1には効かない感じかな。 ペ:そうだね、ほぼCOX-1には無効だと思っていい。COX-1は阻害しないため、胃粘膜や血小板への影響は小さい。ただし、心臓や腎臓への副作用は依然として顕著だ。 コ:え?心臓や腎臓には副作用があるの? ペ:そう、これについては第3回で説明予定だが、選択的COX-2阻害薬は副作用のない安全な薬だ、というイメージには待ったをかけてほしい。 コ:今までの説明だと、COX-2は問題なさそうに聞こえたけど、そううまくはいかないっていうことだね。 ペ:さて、今回はNSAIDsのCOX選択性について説明し、歴史について語ってみました。今回の講義はここで終了とします。 コ:なんか補足説明ばかりで、全然講義が進んでいないような……。 ペ:講義を聞いている人によって理解度が違うからね。 コ:歴史の講義とか必要だったかなあ。 ペ:人によると思うけど、私は歴史を知っていると理解が深まると思っている。 コ:まあ、そうかもしれないね。 ペ:さて、次回は「NSAIDsの薬物動態」について説明していく予定だ。 コ:それでは、また次回もよろしくね。 |