ペ:こんにちは、ペンギン先生です。 コ:コシロです。 ペ:今回から、久しぶりにオンライン抄読会を行っていきたいと思います。 コ:前の輸液の時以来だね。今回はどんなテーマなの? ペ:今回は、解熱鎮痛薬について説明していきたいと思う。 コ:解熱鎮痛薬って、ロキソニンとか、かな? ペ:そうだね、今回紹介するのは、A Comprehensive Review of Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drug Use in The Elderlyという論文だ。言うなれば解熱鎮痛薬について、既存のデータをまとめたアメリカ発の論文だね。解熱鎮痛薬についての噂レベルの話や、意外と知られていない内容も非常に多く含まれた、非常に面白いレビューだった。 コ:今回は何でこの論文を選択したの? ペ:解熱鎮痛薬は、恐らく使ったことが無い大人はほぼいないし、処方したことが無い医者はいないと言っていいほど、非常によく使われる薬だ。そして、風邪薬にも当たり前に入っているような身近な薬だね。一方で、それについて詳しく理解している人って、意外と少ないと思うんだ。痛かったり熱があれば、とりあえずロキソニンっていうのも、禁忌さえ避ければ悪くは無いと思うんだけど、リスクや効果などについて、きちんと理解するのも当然重要だ。一方、現在わかっている情報をきちんとまとめた動画やサイトというのが見当たらなかったので、敢えてこのテーマを選ぶことにした。 コ:前回の輸液講座は、難しいと評判だったけれど、今回はどうかな? ペ:今回の論文は、論理的な内容より研究データの羅列に近いから、そこまで難しくは無いと思う。ただ、単に記載内容をそのまま読み上げるだけではなく、背景となる情報を追加することでわかりやすくしていくつもりだ。 コ:その説明のせいで逆にわかりにくくならないといいね。 ペ:まあ、説明が増えることで話が複雑になって、逆に難しくなることはあるけれど、その分応用が効くと思うんだ。専門家である医師や看護師が「痛ければロキソニンを飲んだら治る!ロキソニンは胃粘膜に悪いんだ」なんて浅い理解で投薬をして欲しくないなって思うし、それは勘弁してください。 コ:確かに、どこにでも転がっている情報をわざわざ動画にしても仕方ないもんね。 ペ:ただ、今回の講義は、第0回として、論文を読むにあたっての基礎知識を紹介することとします。 コ:抄読会なのに論文を読まないんだ? ペ:基礎知識が不十分だと論文を読んでもよくわからないで終わってしまうからね。今回は「NSAIDsの基本原理」というテーマで説明をしていきます。 コ:なんか知らない単語がいきなり出てくるね。 ペ:それについては後で触れるとしよう。まず、解熱鎮痛薬の正体は、炎症を抑える薬だ。炎症を抑えることで、熱を下げ、痛みを取ることができる。そもそも炎症とは何か、についてだ。 コ:確かに炎症っていう言葉自体は聞くし、イメージはあるけれど、何って言われるとよくわからないね。 ペ:今回は詳しい原理までは説明しないので、何となくイメージをつかんでもらえたらいいと思う。炎症には5つの特徴があるとされている。すなわち、発赤、熱感、腫脹、疼痛、機能障害だね。 コ:最初の4つは何となく見たまんまかな。赤くなって、熱い感じがして、腫れあがって、痛みが出る、ということだね。機能障害というのは? ペ:言葉にしたら難しく感じるけど、つまり「痛いといつもみたいに動けないね」程度の話だ。 コ:そういわれるとシンプルだね。 ペ:このような炎症が原因で、熱が出るし、痛みも出るので、それを抑えることで、熱を下げ、痛みを取ることができる、というわけだね。さて、ロキソニンなどの解熱鎮痛薬を語るには、まずアラキドン酸カスケードについて理解する必要がある。 コ:アラキドン酸カスケード? ペ:そう、ここが今回の講義の肝なので、少し大変かもしれないけど、確実に覚えてほしい。まず、細胞は普段から、細胞膜の材料であるリン脂質を使って、アラキドン酸というものを作っている。これがシクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素によってプロスタグランジンという物質に変換される。このプロスタグランジンは発熱や痛みに関わってくる物質で、これが炎症反応を増強する。 コ;少し覚えにくいね。 ペ:まず、物語仕立てにしてみて、荒木さんがコックたちによって、プロスタグランジンに代わっていく、みたいなイメージで行くと覚えやすいかな。 コ:覚えやすいかなあ。 ペ:一般的な解熱鎮痛薬は、COX阻害薬とも呼ばれる。阻害という言葉は、薬理学にはよく出てくるけど、妨害するとか、邪魔をする、という意味だね。つまり、COX阻害薬は、このCOXを妨害することによって、プロスタグランジンを減らす役割を持っている。 コ:コックさんが邪魔されて、プロスタグランジンが作られなくなるってわけだね。 ペ:さて、このCOXには2種類存在しているわけだ。常に働いていて、安定的にプロスタグランジンを生成しているCOX-1。これは普段から細胞の機能維持に働いている酵素だね。なので、普段は細胞膜からアラキドン酸が作られて、COX-1が働いて、プロスタグランジンを作る、という風に安定しているわけだ。 コ:常勤のコックさんってイメージかな。常勤さんが安定して一定量のプロスタグランジンを作っているわけだね。 ペ:ところが、炎症が生じると、アラキドン酸の産生が増えるんだ。すると、現在存在するCOX-1では処理が間に合わない。そこで出てくるのがCOX-2だ。 コ:つまり、臨時雇いのコックさんを雇って、増えた荒木さんに対応するわけだね。 ペ:それによって、大量のプロスタグランジンが産生されることになる。 コ:常勤でも臨時雇いでも、コックさんの能力は変わらないのかな? ペ:良いところに目を付けるね。COX-1は細胞の機能を維持するための常勤のコックさんだ。なので、アラキドン酸から、プロスタグランジンだけでなく、細胞機能維持などに関わる幅広い物質を産生している。一方で、COX-2は臨時雇いなので、基本的にプロスタグランジンなど炎症に関係するものしか作らない。 コ:常勤のコックさんはプロスタグランジンだけではなく、機能維持に関するものも作れるけど、臨時のコックさんはプロスタグランジンしか作れないわけだね。 ペ:そう、そしてCOX阻害薬にも種類があって、COX-1もCOX-2も同じように抑えるのか、COX-2の方を強く抑えるのかなどによって薬の性質が変わってくるんだ。COX-1もCOX-2も炎症には関わるので、どちらに効かせても炎症を抑えるし、解熱鎮痛薬としては効く。ただ、COX-1は常時働いていて、細胞の機能維持に必要な物質も作っているので、一般的にCOX-1を阻害すると、細胞機能維持自体に影響が出やすい。 コ:こうして見ると臨時雇いの方を抑えた方が良さそうに見えるね。常勤コックさんを抑えると、細胞機能維持のために働く人も減ってしまうわけだよね? ペ:そう、だから一般的にはCOX-2だけを抑える方が良いと考えている人も多い。ただし、脳、腎臓、血管は普段からCOX-2がよく働いている、ということはあらかじめ言っておく。 コ:例外があるんだ? ペ:この例外が、後で効いてくるけど、また次回以降で述べることにする。さて、臨床では、COXを抑える薬をNSAIDsと呼ぶ。 コ:NSAIDs?さっき名前だけ出てきたよね。 ペ:NSAIDsはNon-Steroidal Anti-Inflammatory Drugsの省略形だね。直訳すると、「ステロイドではない抗炎症薬」といったところだ。 コ:つまり、炎症を抑える薬には2つあって、1つはステロイドで、それ以外はNSAIDsということなのかな? ペ:そう、広い意味ではステロイド以外で炎症を抑える薬物はすべてNSAIDsだ。ただし、ほとんどの場合は、ロキソニンやボルタレン、イブプロフェンなど、主にCOXを阻害することで炎症を抑えるものをNSAIDsと呼んでいる。アセトアミノフェンも抗炎症作用が無いわけではないんだけど、比較的弱めなこととそちらがメインの作用ではないことから、一般的にはNSAIDsに含まれない。 コ:そういえばステロイドも炎症を抑えるんだね。 ペ:ステロイドはアラキドン酸カスケードに限って言うと、アラキドン酸自体を減らすことで、炎症を抑えることができる。ただ、ステロイドって効くのが遅い上、アラキドン酸カスケードは今回紹介したプロスタグランジン産生以外にも多くの機能があるからね。そのすべてを抑えてしまうこと、アラキドン酸カスケード以外にも薬効の範囲が広く、想定外の副作用が出やすいこともあって、特別な事情が無ければ、解熱鎮痛のためだけにステロイドを使うことはほぼ無いだろう。 コ:痛い時に使っても、効くのに何時間もかかっていたら、あまり良くないよね。しかも想定外の作用が多くなるなら、確かにそのために使おうって気にはならないかなあ。 ペ:さて、今回は論文を読むにあたっての基礎知識の紹介をしました。次回から論文本体に入っていこうと思います。 コ:次回はどんなことを説明するのかな? ペ:次回は「NSAIDsのCOX-1, COX-2選択性」というテーマで講義をする予定だね。 コ:COX-1は常勤コックさんで、COX-2は炎症の時だけ出てくる臨時雇いのコックさんだったね。これについて詳しく説明していくっていうことかな? ペ:そう、具体的な薬剤について、COX-1, COX-2のどちらに効きやすいかを中心に説明していく予定だ。 コ:また次回もよろしくね。 |