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輸液講座 第1回 細胞外液補充液とリンゲル液の種類

※動画の解説文だけを見たい人のために、台本をアップしています。
ただし、必要に応じて改変していますので、細部は異なるかもしれません。
記載するのは図説などを含まないシンプルな文面だけです。図説などが必要な方は動画を参照してください。

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ペ:こんにちは、ペンギン先生です。
コ:コシロです。
ペ:今回は手術中の輸液の管理の基本について講義をしていこうと思います。
コ:輸液っていうと、点滴のことかな。
ペ:そう、明確な定義はないけど、50ml以上の、血管内に投与するための液体を輸液製剤ということが多い。輸液製剤には水分やミネラル、糖分などしか含まれていないことがほとんどだ。
コ:体に対しては大した影響がないことが多いってことかな?
ペ:いや、水分やミネラル、糖分って、体にとって重要な成分だよね?それを血管にダイレクトに入れていくんだから、的確にコントロールしないと体に重大な影響を与えることもある。多すぎると浮腫になるし、呼吸状態に影響を与えるリスクもある。一方で少なすぎると脱水になって血液循環が保てない。
コ:そんな危ないものなの?
ペ:こういう風に言うと緊張するかもしれないけど、体は水分に対する強い調節能力を持っているから、過剰に怖がる必要はない。例えば水を飲みすぎると水中毒になる可能性はあるし、飲まな過ぎたら脱水になるけど、普通はそんなに厳密な水分量の管理をしていないはずだ。それでも、大きな問題は無いよね?
コ:確かにそうだね。
ペ:例えば健康な人に500mlの輸液を一気に注入にしたところで、普通は問題ない。ただし、全身の状態が悪い場合にはより厳密な調節が必要となるし、特に手術中は大きく体内の水分量が変化することになるので、通常よりも厳密かつ臨機応変に対応する必要がある場合もある。なので、輸液について知識を深めて、より的確な判断をできるようにしよう、というのが今回の趣旨だ。
コ:なるほど、今回は特に、手術中の輸液の管理がテーマだったね。
ペ:そう、具体的な輸液製剤の種類や、詳細に知識、使い分けなどについて説明していこうと思う。いきなり麻酔の現場に立たされた時に「どうやればいいのか」わかるように説明していくのが目標だ。なので、研修医や看護師くらいがターゲットになるね。ただ、せっかくだから少し教科書に書かれていないような踏み込んだ話もしていこうと思っている。あと、予め言い訳するけど、この動画はあくまで麻酔中の輸液について「基本を理解し、とりあえず実践できるように」という目的で作成している。なので、厳密に見ると「少し違うのではないか」という部分も当然ある。そういった疑問は何でもコメント欄に書いて、自由に議論してください。また、より深く輸液について理解したい人は、「輸液に関するオンライン抄読会」の動画などを見て自分なりの考えを作っていけたらと思います。
コ:チャンネル登録とグッドボタンもお願いします。
ペ:なお、1回ですべて話すとなると非常に長くなるので、何回かに分割して講義をします。今表示されている画面が講義の予定です。今回は細胞外液補充液リンゲル液の種類について説明していきます。
ペ:さて、輸液をするにあたって、まずは製剤の選択から行う必要がある。多くの手術室、あるいは麻酔科医は割とデフォルトのメニューを決めていることが多い。なので、特に問題がなければその製剤を選択してもいいだろうね。
コ:自分で選択しなくてもいいの?
ペ:病態によっては、きちんと選択しないといけない場合もあるので、それについては注意が必要だけど、9割以上の症例ではデフォルトのセットで大丈夫だろうね。ただ、使い分けるためには、普段使っているものも含めて輸液の製剤の性質について、しっかりと理解していないといけない。今回は、それについて論理的な説明をしていくことにする。まず、一般的に手術室では「細胞外液補充液」を使用する。
コ:細胞外液補充液って?
ペ:細胞外液補充液輸液製剤の中でも、細胞と浸透圧がほぼ同じものだ。詳しい論理は第4回の講義で話す予定だけれど、細胞外液補充液は細胞と浸透圧が等しいため、細胞内に水分が移動しない。そのため投与した輸液が細胞の外に分布するため、血管の中に残る水分量が比較的多くなる。手術中は麻酔による血管拡張や出血など、循環血液量を不足させるイベントが多いため、細胞外液補充液が好んで使われる。まあ「細胞外液補充液」が正式名称なんだけど、臨床現場ではほぼ略称の「細胞外液」とか「外液」としか呼ばれないかな。私も講義では格好つけて細胞外液補充液と口にしているけど、普段は「外液」と呼んでいる。
コ:細胞外液補充液って、言いにくいもんね。点滴の種類で言うと、生理食塩水みたいなものかな?
ペ:そう、生理食塩水細胞外液補充液の中で一番シンプルかつ一番代表的なものになる。生理食塩水pHはいくつになるかな?
コ:食塩水は中性だから、pHは7.0だね。
ペ:そう、一方で人間の血液pHは7.40くらいだ。それを踏まえて、もし血液の中に生理食塩水を大量に入れたらどうなるかな?
コ:生理食塩水血液よりpHが低いわけだから、血液が酸性に傾いて、アシドーシスになるのかな?
ペ:そういうことになるね。実際、生理食塩水の大量投与はアシドーシスおよび腎不全の原因となる可能性があることが知られている。
コ:それは良くないね。
ペ:なので、それを防ぐために特別に調整された細胞外液補充液を使っていることが多い。浸透圧はそのままに、カリウムイオンカルシウムイオンを加えたものをリンゲル液と言うが、病院の多くの現場では、これにさらに乳酸イオン酢酸イオンなどの陰イオンを加えた、特別なリンゲル液を使う。この乳酸イオン酢酸イオンが、アシドーシスを防ぐための決め手となる。
コ:ちょっと待って、「酢酸」と「乳酸」っていうことは、そのリンゲル液酸性だよね?アシドーシスを防ぐために、酸性のものを投与するのはおかしくない?
ペ:そう、実際、乳酸リンゲル酢酸リンゲルpH酸性よりのものが多い。しかし、乳酸酢酸代謝されることによって、最終的に重炭酸イオンが生成される、という特徴がある。ちなみに、乳酸はほぼ肝臓でしか代謝されないので肝不全では使いにくく、糖尿病患者に使うと血糖値を上げやすいとか、酢酸は臨床的に問題となるほどではないけど血管刺激性があるとか、代謝産物のアデノシン血圧を下げるリスクがあるという噂があるとか、細かい違いはあるけれども、使い分けはほぼ好みの領域だと思う。
コ:最初は酸性でも、代謝されたらアルカリ性重炭酸になるから、問題ないってこと?
ペ:そういうことになるね。一方で、乳酸リンゲル酢酸リンゲルには酸性寄りの物質が含まれているということを無視できない。つまり短期間大量投与をすることによって、血液pHを一時的に酸性側に傾けるリスクがある、ということだ。
コ:一時的ってどれくらい?
ペ:資料にもよるけど、乳酸半減期が10〜30分、酢酸は20〜60分くらいかな。なので、ゆっくり輸液をしているだけならともかく、急速輸液をする場合には無視できなくなる可能性がある。
コ:乳酸酢酸代謝されることで重炭酸に変化するんだよね?それなら、いっそのこと重炭酸をそのまま血液中に入れることはできないの?
ペ:重炭酸はHCO₃⁻という化学式だ。そのため、水中のH⁺と反応すると二酸化炭素に変化してしまう。二酸化炭素フィルム透過性が高く、通常の輸液バッグではゆっくりだけど透過して長期保存ができなかった。
コ:できなかったってことは、今はできるってこと?
ペ:そう、2004年に、二酸化炭素透過性の低いフィルム輸液バッグ全体を包み込むことによって、二酸化炭素を閉じ込め、輸液内から二酸化炭素が抜けないようにした輸液が誕生した。それが重炭酸リンゲルビカーボンだ。今はビカネイトというのもあるね。
コ:これだったら、投与した後のアシドーシスも心配しなくていいってことだね。
ペ:そう、ビカーボンビカネイトpHは6.8〜7.8と、より血液に近い値になっていて、投与直後のアシドーシスの心配はないとされている。重炭酸リンゲルは、当然患者状態による代謝の影響などは受けないし、血管刺激性などもない。乳酸リンゲル酢酸リンゲル コ:そうなんだ?じゃあ、なんで今でも乳酸リンゲル酢酸リンゲルが使われているの?全部重炭酸リンゲルにすればいいじゃない。
ペ:確かにそれは正しい意見だけど、一つ重要な観点を見落としているよ。
コ:重要な観点?
ペ:お金だよ。
コ:……ゲスな話?
ペ:いや、そうではないよ。重炭酸リンゲル輸液の中に重炭酸を安定させて、それを完全密封できる特殊なフィルムで包み込んでいる輸液だ。高度な技術や特殊な材料を使っている輸液なので、当然コストがかかるんだ。具体的には、2024年11月の時点で、乳酸リンゲルのラクテックが231円、酢酸リンゲルのフィジオで212円なのに対して、重炭酸リンゲルビカネイトは288円もする。
コ:……そこまで変わらないような。
ペ:いや、値段にして2-3割変わるんだ。これは意外と侮れない。なので、必要以上には使わないようにしないといけない。
コ:必要以上って具体的には?
ペ:先ほど乳酸リンゲル酢酸リンゲル急速投与したら一時的なアシドーシスを生じる可能性がある、という話をしたと思う。しかし、逆に言うなら「急速投与さえしなければ問題ない」と言い換えることもできる。そして、輸液急速投与する場面なんて非常に限られている。
コ:というと?
ペ:輸液急速投与する現場というと、ほぼ救急室手術室に限定される。なので、重炭酸リンゲルはその2つの場所に配置しておいて、急速投与が必要な場面でのみ使用するようにしたら十分だ。一般的な病棟で使用する輸液製剤重炭酸リンゲルなんて必要ないし、たとえ手術室救急室でも、急速投与しないなら重炭酸リンゲルなんて必要ない。
コ:なるほど、不要な場面では乳酸リンゲル酢酸リンゲルを使ったらコストが削減できるってことだね。
ペ:そういうこと。まあ、実際、乳酸リンゲル酢酸リンゲルを避けて重炭酸リンゲルを使うことにそこまで大きなメリットがあるのかも意見が分かれているレベルだしね。
コ:話を聞いていたら重炭酸リンゲルの方がいいような気はするけど、あくまで理論上の話で、結局よくわからないってこと?
ペ:データで見る限りも、大きな影響はないとしていることがほとんどだね。ただ、肝移植の時に重炭酸リンゲルを使うとアシドーシスを緩和し、術後肝障害を軽減した、というデータはある。肝移植の時は肝臓が一時的に体内から無くなり、機能しなくなるタイミングがあるので、少し特殊だけど、このデータを見ると、やはり肝臓への負担を減らしているのかな、とは思ってしまうね。
論文リンク

コ:あとはそのメリットと値段を天秤にかけて、どちらを取るかだね。
ペ:さて、今回の講義はこれで終了とします。
コ:今回は、生理食塩水リンゲル液の種類についての説明だったね。
ペ:これに関しては、その場にあるものを使っていたり、習慣的に使っているだけで、細かい理屈は意外と知らない人も多い。いまだに救急室生理食塩水大量投与している現場もあるらしいけど、輸液の理屈をしていると、怖いな、という印象を受ける。まあ、一応注釈すると、生理食塩水も単独で大量投与すると悪影響があるけど、少しでも投与したら悪影響が出るっていうわけではないからね。
ペ:それを示したSPLIT試験という試験があるけど、詳しくは別の動画を参照してください。
コ:宣伝なんだ?
ペ:今回の動画について、リンゲル液緩衝作用について詳しく学びたいという人は、輸液に関するオンライン抄読会第2回を、生理食塩水の影響について詳しく知りたい人は、輸液に関するオンライン抄読会第3回を参照してください。
コ:がっつり宣伝するね。
ペ:せっかくだから興味がある人には理解を深めてほしいからね。それでは、次回は輸液糖分について詳しく説明していきます。
コ:また次回もよろしくね。
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