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7つで寝るのが良い麻酔?

※動画の解説文だけを見たい人のために、台本をアップしています。
ただし、必要に応じて改変していますので、細部は異なるかもしれません。
記載するのは図説などを含まないシンプルな文面だけです。図説などが必要な方は動画を参照してください。

ペ:こんにちは、ペンギン先生です。
コ:コシロです。
ペ:今回は「7つで寝るのが良い麻酔?」について解説していきます。
コ:何?このタイトル。
ペ:麻酔科医をやっていると、たまに「7つを数えた時に寝るのが良い麻酔なんですよね」と言われることがあるんだ。
コ:何で?
ペ:まあ、漫画の影響だね。医龍という漫画で、麻酔科医が、麻酔薬を投与してから「ひとーつ、ふたーつ、みっつ、よっつ、いつーつ、むっつ、にゃにゃーつ、はい落ちた」という感じで、7つを数えるタイミングで寝かしているシーンがあるんだ。その麻酔科医が、何回かそれをやっているのを見た研修医が「また、にゃにゃーつ、ですか?」と笑っていると、主人公が「ゆっくり数えて7つが、麻酔で落ちる理想の速度だ、覚えておけ」と口にするシーンがあるんだ。なお、イラストについては、著作権に配慮して、こちらで作成したイメージ画像となります。元々の画像が気になる方は、"医龍 第41幕 ER"を参照してください。なお、動画投稿時点では、サンデーうぇぶりで、フリーで読むことができます。配信状況などはアプリから確認してください。また、書籍で読みたい人は、医龍の6巻を購入してください。
コ:作品の中で、ゆっくり7つを数えて寝るのが理想の速度だって伝えているわけだね。
ペ:「にゃにゃーつ」という特徴的な表現、麻酔科医の有能さを示したシーンということもあって、印象に残った人も多いだろう。だから、結構これを覚えている人も多いのか、冒頭のセリフにつながるわけだ。
コ:なるほど。それで、これって本当なの?
ペ:先に言います。十分な根拠はありません。
コ:正しくないの?
ペ:医龍は結構、医学的に面白い話も多いし、よく検証もされているんだけれど、これに関しては、間違っているとまでは言えないまでも、7という数字を強調する意味はないね。炭酸抜きコーラと同じような話で、キャラクターの凄さを引き立てるために、それっぽいエピソードを作って盛り上げている感じの演出だ。「医学的におかしい」と言い切れないところが絶妙だよね。
コ:炭酸抜きコーラ?
ペ:……これはグラップラー刃牙という漫画の1巻を参照してください。有名な話なので、ネットで検索しても出ますが、ピッコマなどの漫画アプリで、無料で読めることも多いです。
コ:また漫画なんだ?
ペ:ちなみに、過去の動画でも説明したように、小腸での糖分の吸収は塩分とセットでおこなわれるので、炭酸抜きコーラ自体は糖分の吸収効率がそれほど高くない。グラップラー刃牙の漫画内では一緒に、おじやと梅干しを食べているので、それによって塩分を摂取して糖分の吸収を速めているんだろうね。食事も脂質が少なく吸収効率はいいし、コーラにはブドウ糖や果糖以外にもカフェインとか……。
コ:それはいいから本題に入ろうよ。

ペ:わかりました。今回は7つで寝るのが良い麻酔、というのは本当か、というテーマだったね。
コ:そもそも、7つを数えた時に寝かすのって難しいの?
ペ:結論から言います。慣れた麻酔科医なら、やろうと思ったら、全然難しくありません。
コ:簡単なんだ?
ペ:点滴から投与された薬剤は、静脈を通って、心臓や肺を通り、脳まで送られる。麻酔薬の場合、脳で一定以上の濃度に達すると眠ってしまうわけだね。脳の薬物の濃度としては、こんな感じで一気に上がるわけだし、一定以上の濃度になると眠るわけだから、とりあえず十分な量を投与するだけでいい。
コ:じゃあ、普通にやっていれば、7秒で眠るの?
ぺ:いや、普通にやると、もっと時間がかかることが多いね。というのも、点滴から薬を入れても、普通は点滴の中を流れるのに数秒くらいはかかる。そして、静脈を流れる時間もかかるから、脳に到達するのにそこそこかかる。正確に測ったことはないけれど、薬を投与してから15秒くらいかかるんじゃないかな?
コ:じゃあ、7秒で寝かすなんて無理じゃない?
ぺ:そもそも、医龍の方では、「ゆっくり数えて7つ」という基準なので、7秒とは言っていないよ。多分15秒くらいと考えると……
コ:普通に寝かせれば達成できる数字なんだ?
ぺ:そう、だから全く難しい数字じゃない。もちろん微調整してぴったりにするのはそこそこ難しいだろうけど、意識しなくても自然と達成している数字だ。そして、「ゆっくり数えて7つ」を意識している麻酔科医はほぼいないと思う。
コ:なんで?
ぺ:「ゆっくり数えて7つ」という数字に根拠がないからだ。普通に寝かしたらこれくらいになる、というだけで、ぴったりの数字にする意味がないし、この数字自体が当てにならないこともある。
コ:例えば?
ぺ:麻酔薬は基本的に循環を抑える効果があることが多い。つまり、血圧と心拍数が下がる。若くて健康な人だったら、素早く寝かしても問題がないことがほとんどだけど、高齢者や、心臓に問題がある人、出血やショックなどで血管内の水分が減っている人などの場合、そういった急な血圧の低下に体がついてこない危険性がある。その場合は、あえて麻酔薬を減らしたり、ゆっくり投与するなどして、血液の循環が保てるように監視しながらゆっくりと寝かすことも多い。この場合は、「ゆっくり数えて7秒」というのは、寝かすには早すぎる可能性がある。
コ:起きている状態から急に眠った状態に体が移行するんだもんね。状態が悪かったら、確かに危なそうだね。
ぺ:ちなみに、通常の全身麻酔では、血圧は機械が数分おきに自動で測っているんだけれど、実際の現場では、状態が悪い場合には眠る前に動脈の方からカテーテルを挿入することも多い。こうすることで、血圧をダイレクトに測ることができるから、1秒間隔で血圧を知ることができるし、異常があれば即座に対応できる。
コ:数分に1回しか測れないものが、1秒間隔でわかるのなら、それは強力だよね。
ぺ:あとは、寝かす時に、麻酔薬と一緒に血圧をあげる薬も投与することがあるが、本当に危ない時は、基本的に寝かす速度を緩めることになる。このように、「ゆっくり数えて7秒」が早すぎる場合があるんだ。
コ:なるほど、状態が悪い人には、「ゆっくり数えて7秒」は早すぎる可能性があることはわかったよ。じゃあ、常にゆっくり寝かした方がいいんじゃないの?極端な話、毎回5分くらいかけてゆっくり寝かせた方が、血圧とか心拍数は安定しやすいよね?
ぺ:それはそれで良くないんだ。まず、ゆっくり寝かせすぎると、眠ったタイミングがつかみにくいんだ。
コ:声をかけて反応が無かったら眠っているんじゃないの?
ぺ:ゆっくり寝る場合には、声を掛けたらわずかに身じろぎしたりとか、中途半端なリアクションをすることも多いからね。そして、わずかに身じろぎはあるけど呼吸が止まっている、なんてこともあるから、リスクも上がってしまう。
コ:それはタイミングがつかみづらいね。
ぺ:あとは、麻酔の段階の問題もある。
コ:麻酔の段階?
ぺ:過去の動画でも紹介したが、お酒と同じように、麻酔の効き方には段階がある。まずは無痛期という、少しぼんやりした段階になる。その次が興奮期で、これが問題だ。人は普段から、言いたいことなどを色々と抑えているが、その理性の方が麻痺してしまうせいで、思ったことを口に出すようになってしまう可能性がある。あるいは、不安がある場合には、それが爆発して暴れだす危険性もある。つまりは、お酒に酔ったのと同じような状態だね。
コ:それはお互い良くないね。
ぺ:その段階を過ぎたら、外科期麻痺期という、完全に眠ってしまう段階に来るわけだけれど、やはり興奮期になってしまうと、色々と問題が生じることが多いので、その段階はすぐに通過するように麻酔薬を調整した方がいい。その点では、「ゆっくり数えて7つ」というのはバランスのいい数字ではある。
コ:まあ、目安としては良い感じっていうことかな。

ぺ:さて、今回は「7つで寝るのが良い麻酔?」について解説していきました。
コ:結局、目安としてはそんなものだけれど、7つという数字に意味はないし、その目安が当てにならないこともあるっていう話だったね。
ぺ:ただし、麻酔科医によっては、早さを重視したり、循環の安定を重視したりなどで、その目安も変わっている可能性はある。インターネットを見ていると、「全身麻酔を受ける時にこっそりと数字を数えていた」なんていう人もいるみたいだけれど、7つで眠っていなかったからと言って、麻酔科医のスキルに問題があるということではありませんので、悪しからずご了承ください。
コ:そういえば、今回は何でこのテーマなの?
ぺ:この前、全身麻酔の導入をしている時に、カウントしている人がいたからだよ。やっぱり、まだこの話って生きてるんだって実感したね。楽しそうな人だったし、私はそういう人が大好きだけれども。
コ:ちなみにいくつで眠ったの?
ぺ:7つ、と言いたいところだけれど、8つだね。
コ:惜しかったね。
ぺ:ちなみに、もちろん何の問題もなく終わっている。
コ:当然だね。
ぺ:良い麻酔っていうのは、何秒で眠るかじゃなくて、眠る間も、眠った後も、安全が保たれていることだっていうことだね。
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